原発事故避難者と二重の住民登録

政治思想学会の学会誌『政治思想研究』第18号に投稿した公募論文が公刊されました。昨年度の日本公共政策学会における報告に加筆修正したものです。掲載誌全体の目次は政治学資料室をご覧ください。拙論の構成は以下の通りです。

  • 松尾隆佑 [2018] 「原発事故避難者と二重の住民登録――ステークホルダー・シティズンシップに基づく擁護」『政治思想研究』18: 140-168.
    • 一 はじめに [140]
    • 二 「住民」でありつづけることの困難 [141]
    • 三 現行政策の何が問題か――シティズンシップ保障の不全 [142]
      • 1 「二重の住民登録」の提言 [142]
      • 2 原発避難者特例法とその評価 [143]
      • 3 自治の主体たる地位の保障 [146]
    • 四 多重的シティズンシップの擁護 [148]
      • 1 集合的自己決定としてのデモクラシー [148]
      • 2 ステークホルダー・シティズンシップの原理 [150]
      • 3 原発事故避難者への適用 [153]
    • 五 おわりに [155]

数年経てばウェブからも読むことができるようになりますが、今現在ある課題・政策を直接の対象にしていることもあり、お近くの書店や図書館で手に取って頂ければ幸いです。

読書会(2018年度・前期)

「政治と理論研究会」2018年度前期の読書会を、以下の日程で開催します。時間はいずれも19時~20時半、会場は法政大学市ヶ谷キャンパスの大学院棟を予定しています。

参加をご希望する方は、松尾(kihamu[at]gmail.com)までご連絡ください。

このページは随時更新していきます。まだ文献が決まっていない日は、これから参加者と相談して決めます。決まった予定や開催記録などを書き加えていきますので、ご関心の向きは適宜ご確認頂ければと思います。

(2018年4月22日、記事投稿。5月13日、情報更新。5月25日、情報更新。6月9日、情報更新。6月21日、情報更新。7月12日、情報更新。8月11日、情報更新)

読書会開催のご案内

政治と理論研究会では、今年度も継続的な読書会を開催いたします。所属や専攻を問わず、どなたでもご参加を歓迎いたします。開催要領は以下の通りです。参加を希望される方は、下記のメールアドレスまでご連絡ください。

【対象文献】

  • 最近数年間に刊行された、日本語の政治思想関連書籍(翻訳を含む)
  • 扱う書籍は、参加予定者から希望を募り、協議の上で決定する
  • 文献選定の参考に供するため、候補一覧を本頁下部に挙げる

【進行形式】

  • 各回で扱う文献1冊を通読した上で参加し、文献全体を対象範囲として議論する
  • レジュメ担当者は特に設けず、最初から参加者全員による議論を行う
  • 各参加者が自発的にレジュメやメモ、関連資料等を作成・配布することは妨げない

【開催日程】

  • 隔週の水曜19:00~20:30
  • 2018年5月~7月(前期)および10~12月(後期)に、それぞれ5~6回の実施を予定
  • 具体的な日程は参加予定者と相談の上、決定する
  • 単発ないし部分的な参加も可能。ただし、日程は継続的参加者の都合を優先して定める

【会場】

  • 法政大学市ヶ谷キャンパス大学院棟(東京都新宿区市谷田町)の教室を使用予定

【連絡先】

  • 松尾 隆佑(法政大学法学部兼任講師) kihamu[at]gmail.com
  • お問い合わせの際には、①氏名、②所属等、③専攻・関心等、④扱う文献の希望、⑤参加可能な時期等、をお知らせください。

【対象文献候補】

  1. 金慧『カントの政治哲学――自律・言論・移行』(勁草書房、2017年)
  2. 永見瑞木『コンドルセと〈光〉の世紀――科学から政治へ』(白水社、2018年)
  3. 河野有理『偽史の政治学――新日本政治思想史』(白水社、2016年)
  4. 大竹弘二『公開性の根源――秘密政治の系譜学』(太田出版、2018年)
  5. 小山裕『市民的自由主義の復権――シュミットからルーマンへ』(勁草書房、2015年)
  6. 趙星銀『「大衆」と「市民」の戦後思想――藤田省三と松下圭一』(岩波書店、2017年)
  7. 田中将人『ロールズの政治哲学――差異の神義論=正義論』(風行社、2017年)
  8. 井上彰『正義・平等・責任――平等主義的正義論の新たなる展開』(岩波書店、2017年)
  9. 福原明雄『リバタリアニズムを問い直す――右派/左派対立の先へ』(ナカニシヤ出版、2017年)
  10. 若松良樹『自由放任主義の乗り越え方――自由と合理性を問い直す』(勁草書房、2016年)
  11. 上原賢司『グローバルな正義――国境を越えた分配的正義』(風行社、2017年)
  12. 伊藤恭彦『タックス・ジャスティス――税の政治哲学』(風行社、2017年)
  13. 衛藤幹子『政治学の批判的構想――ジェンダーからの接近』(法政大学出版局、2017年)
  14. 有賀誠『臨界点の政治学』(晃洋書房、2018年)
  15. マーク・リラ『難破する精神――世界はなぜ反動化するのか』(会田弘継監訳、NTT出版、2017年)
  16. イリヤ・ソミン『民主主義と政治的無知――小さな政府の方が賢い理由』(森村進訳、信山社、2016年)
  17. ウェンディ・ブラウン『いかにして民主主義は失われていくのか――新自由主義の見えざる攻撃』(中井亜佐子訳、みすず書房、2017年)
  18. ピエール・ロザンヴァロン『カウンター・デモクラシー――不信の時代の政治』(嶋崎正樹訳、岩波書店、2017年)
  19. ハンナ・ピトキン『代表の概念』(早川誠訳、名古屋大学出版会、2017年)
  20. ジョセフ・カレンズ『不法移民はいつ〈不法〉でなくなるのか――滞在時間から滞在権へ』(横濱竜也訳、白水社、2017年)
  21. ジョナサン・ウルフ『「正しい政策」がないならどうすべきか――政策のための哲学』(大澤津/原田健二朗訳)、勁草書房、2016年)

以上は、あくまで参加予定者の希望を募る際の参考としてリストアップしたものであり、ここに挙げた以外の文献も、希望があれば取り扱うことがある。なお、過年度に扱った文献は挙げていない。

〈つながり〉の現代思想

共編者の山本圭さんより、下記の論文集をご恵贈頂きました。深く御礼申し上げます。

山本さんは第3章「ポスト・ネイションの政治的紐帯のために」を執筆されています。他に私が面識のある方では、乙部延剛さんが第4章「〈政治的なもの〉から〈社会的なもの〉へ? ――〈政治的なもの〉の政治理論に何が可能か」を、大久保歩さんが第5章「友愛の政治と来るべき民衆――ドゥルーズとデモクラシー」を書かれています。

詳細な目次は、政治学資料室の方に掲載済みですので、そちらからご覧頂けます。

2013年から16年に行われた、政治学・哲学・精神分析の研究者が集った研究会の成果ということで、事情により刊行が遅れていたようです。出版社の宣伝文句に「気鋭の若手研究者たちによる意欲的論集」とあるように、いわゆる(?)「気鋭本」に分類されるものかと思います。

編者による「まえがき」では、「本書の基本的な関心は、思想や言説の次元から原理的・根源的な仕方で社会的紐帯を捉え直すことにむけられている」(10頁)、と述べられています。震災後の日本における「絆」論や政治的・社会的な諸分断の深まりなどが刊行の背景にあるようですが、哲学・思想さらには精神分析という観点から「社会的紐帯」にアプローチしているのは特徴的だと思います。政治学者が精神分析について書いているものとして、たとえば有賀誠「精神分析と政治――フロイト、ラカン、ジジェク」などがありますが、本書は共同研究ということで、政治学や哲学・思想史の観点と精神分析の観点とが、それぞれ交差しながら一冊を織り成しています。

山本論文では、人びとをまとめ上げ包摂する(左派)ポピュリズムの効用が論じられています。議論のなかでは、ネイションに基づく社会的紐帯や権威主義的な右派ポピュリズムは、排除をもたらしやすいものとされています。私がやや気になるのは、左派ポピュリズムという立場が、それが対抗・敵対しようとする集団を含めた「社会」全体のまとまりというものを、どう考えるのだろうかという点です。「包摂的」なポピュリズムがもたらす集団の政治的紐帯が一時的・偶然的なものにとどまるというのは、とりあえずよいとして、それはたとえばJ. -W. ミュラーが批判するポピュリズムの反多元主義的性格という問題を退けられるものなのでしょうか。

乙部論文は、1990年代以降に多様な論者が示した「政治的なもの」への注目が2000年代後半からは退潮し、「社会的なもの」の重視に取って代わられたのではないか、「政治的なもの」に拠っては「社会的なもの」が提起する問題を上手く扱うことができないのではないか、との疑問を検討しています。最終的に示されるのは、ポスト基礎づけ主義的な立場から、非人間の存在物に着目して「現行とは異なる政治秩序」を描く「政治的エコロジー」論の可能性です。非常に新鮮で刺激的ですが、きちんと理解するには時間を要しそうです。

大久保論文はG. ドゥルーズのデモクラシー論を扱っており、門外漢の私には一読しただけでコメントできるようなことは何もないのですが、「マルチチュード」(M. ハート/A. ネグリ)、「不審者」(山本圭)、「死民」(石牟礼道子)などと結び付けながら、「来るべき民衆」について語る結論部は印象的なものでした。

その他の論文も、機会を見て拝読いたします。誠にありがとうございました。

ごあいさつ

こちらにホームページおよびブログを移転しました。

これまで運用していたいくつかのブログから、過去記事をインポートしています。カテゴリーが「旧ブログ」に分類されているものが、インポートされた記事です。現在、日付等の修正に時間がかかっておりますので、すべての記事の公開完了までしばらくお待ちください。なお、それぞれの旧ブログについては、今後削除する予定ですので、ご了承ください。

また、その他さまざまな点で未完成・不十分なところが残っているため、徐々に修正を加えていきます。

宜しくお願いいたします。